ココ・ファーム・ワイナリー完全ガイド|知的障害者と教師が開墾した急斜面からサミット公式ワインへ【栃木・足利】

ワイン選び・入門

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1958年。栃木県足利市の山間で、ひとりの中学教師と知的障害を持つ生徒たちが、素手とツルハシで急斜面を掘り始めた。

勾配38度。機械も入れない崖のような斜面。2年がかりで3ヘクタールを切り開いた。

それから42年後、その畑から生まれたワインが、九州・沖縄サミットの公式晩餐会で乾杯された。世界のリーダーたちのグラスに注がれたのは、知的障害を持つ人たちが丹精込めて育てたブドウで造られたワインだった。

これが、ココ・ファーム・ワイナリーの物語だ。

ココ・ファーム・ワイナリーとは?基本情報

ワイナリー名ココ・ファーム・ワイナリー(COCO FARM & WINERY)
設立1980年(醸造開始1984年)
所在地栃木県足利市田島町
ブドウ畑開墾1958年(こころみ学園と同じ畑)
関連施設障害者支援施設「こころみ学園」(現在 利用者128名)
栽培農法有機・自然農法。急斜面のため機械化不可・手作業100%
代表ワイン農民ロッソ・農民ドライ・こころぜ・いまここ・NOVO
サミット採用2000年 九州沖縄サミット・2008年 洞爺湖サミット
主な受賞渋沢栄一賞・吉川英治文化賞など多数

川田昇という教師——「この子たちを一人前にしたい」

戦後の日本。特殊学級に通う知的障害を持つ子どもたちは、教室の片隅に追いやられていた。

そんな現状に黙っていられなかった中学教師がいた。川田昇(かわた のぼる)。農業の心得もあった彼は、自費で足利市郊外の山を買い、生徒たちを連れて畑を拓くことを決めた。

「何とかしたい。この子たちを一人前の大人にしたい」

1958年の春、川田と生徒たちは栃木県足利市田島町の急斜面へと向かった。

それはとんでもない土地だった。勾配38度。機械はもちろん、普通の農具さえまともに使えない崖のような斜面だ。それでも彼らはひたすら掘り続けた。ツルハシで、スコップで、そして時には素手で。

2年後、3ヘクタールの畑が姿を現した。

野良仕事を通じて、生徒たちは驚くほど変わった。

「仕事を任される喜び」「感謝される喜び」を知り、少しずつ農夫に育っていった。

土地を耕し、作物を育て、収穫する。その繰り返しの中で、生徒たちは「できた」という実感と自信を積み重ねていった。

「こころみ学園」の誕生——畑の麓に施設を作った

1969年、川田昇はその畑の麓に障害者支援施設を作った。名前は「こころみ学園」。収容定員30名の小さな施設だった。

施設の方針はシンプルだった。ブドウとシイタケの栽培を通じて、心身の健康と自立を目指す。施設内での「作業」ではなく、本物の農業として向き合う。それが川田の信念だった。

口コミで評判が広まり、3年後の1972年には入所者が80名に増えた。

だがここで、大きな壁にぶつかる。

育てたブドウをワインにしたい。生産物に付加価値をつけて、園生たちの生活をより豊かにしたい。そう考えた川田が醸造免許を申請すると、行政からこう言われた。

「福祉法人がお酒を造るのは前例がない」

前例がないから、できない。

川田はあきらめなかった。保護者たちに出資を呼びかけ、1980年に別法人「有限会社ココ・ファーム・ワイナリー」を設立した。福祉法人ではなく一般企業として免許を取得し、1984年、ついに本格的なワイン醸造が始まった。

ブルース・ガットラヴがやって来た

1989年、ニューヨーク出身のワイン醸造家・ブルース・ガットラヴが来日した。

カリフォルニア大学デービス校大学院で醸造学を修めたブルースは、川田昇の強い要請に応えてこころみ学園の山に足を踏み入れた。初めてあの急斜面の畑を見たとき、彼は何を思ったのだろうか。

ブルースがもたらしたものは大きかった。彼の信念は明確だった。

「ワインはブドウ畑の香りを伝えるものだ」

輸入ブドウを使っていたワイン造りを、国産ブドウ100%に切り替えた。足利の急斜面で育った国産ブドウだけでワインを造る。その哲学が、ココ・ファームのワインを根本から変えた。

ドライで酸味があり、すっきりとした辛口。料理に寄り添い、食卓を豊かにするワイン。ブルースが約20年かけて磨き上げたそのスタイルは、今もなおココ・ファームの基本哲学として受け継がれている。

2009年にブルースは北海道へ移住し「10Rワイナリー」を設立したが、現在もココ・ファームの取締役、こころみ学園の評議員として関わり続けている。

機械が入れない急斜面——手作業100%のブドウ栽培

ココ・ファームのワインがなぜ特別なのか。その答えの半分は、この急斜面にある。

勾配38度の急斜面には、トラクターも農業機械も入ることができない。すべての農作業は人の手で行われる。剪定、誘引、草刈り、収穫——すべてが手作業だ。

その労働を担っているのが、こころみ学園の園生たちだ。

現在、施設には128名の重度知的障害者が生活している。彼らの多くが毎日この急斜面に上がり、ブドウの世話をする。機械ができないことを、人の手が丁寧にこなす。

急斜面栽培には、実は大きなメリットがある。

  • 水はけが極めて良い:雨水がすぐに流れ下り、根腐れが起きにくい
  • 日照量が多い:斜面が太陽に向かって傾いており、受光量が平地より格段に多い
  • ストレス栽培:水分・養分のストレスにさらされた樹が、凝縮した果実を生む
  • 通気性が高い:風通しが良く病害リスクが低い

フランスのモーゼルやローヌ渓谷の急斜面ワインが世界的評価を受けるのと同じ理由が、ここ足利の山にも存在している。

九州・沖縄サミットの公式ワインに選ばれた日

2000年7月、沖縄県那覇市の首里城で、G8首脳晩餐会が開かれた。

乾杯のグラスに注がれたのは「NOVO(ノーボ)ドゥミ・セック 1996」。ジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントン、トニー・ブレア……世界の首脳たちのグラスを満たしたのは、知的障害を持つ人たちが手で耕した畑から生まれたスパークリングワインだった。

日本ワイン界にとって歴史的な瞬間だった。「日本のワインは世界に通じる」という証明が、最も権威ある舞台でなされた。

その後も採用は続く。

  • 2008年 北海道洞爺湖サミット:総理大臣夫人主催夕食会で「風のルージュ」が採用
  • JAL国際線ファーストクラス・ビジネスクラス:常時搭載ワインとして長年採用
  • 各種国際会議・公式晩餐会:繰り返し日本を代表するワインとして起用

「障害者施設のワイン」という文脈を超えて、純粋に「日本最高水準のワイン」として認められた。そのことの意味は計り知れない。

ココ・ファームのワインラインナップ【楽天で購入できるもの】

ココ・ファームのワインは、入手のしやすさも魅力のひとつだ。幻のプレミアムワインではなく、日常に寄り添える価格帯で提供されている。以下、代表的なラインナップを解説する。

① 農民ロッソ(赤)

最も広く知られる定番赤ワイン。「農民」という名前が示す通り、毎日の食卓に寄り添う飲み飽きしないスタイルが特徴だ。参考価格は約2,700〜2,800円(税込)。

味わい:ミディアムボディ、赤いベリー系の果実味、程よいタンニン、すっきりとした飲み口

合わせたい料理:ハンバーグ、ビーフシチュー、チーズピザ、焼き鳥(タレ)

② 農民ドライ(白)

白ワインの定番。「ドライ」の名の通り、すっきり辛口で料理との相性が抜群だ。公式価格2,530円(税込)。コスパのよさでリピーターが多い一本。

味わい:辛口、柑橘系の香り、フレッシュな酸味、スッキリとした後味

合わせたい料理:刺身(白身・貝類)、天ぷら、アジフライ、パスタ(オイル系)

③ こころぜ

「こころみ学園」の名を冠したシグネチャーワイン。ロゼ・赤のラインナップがあり、チャーミングな色合いと親しみやすい味わいが人気を集める。ギフトとしても喜ばれる一本。

味わい:フルーティで飲みやすい、適度な甘みとフレッシュな酸のバランス

おすすめシーン:誕生日・記念日のプレゼント、ホームパーティ、ワイン初心者へのギフト

④ いまここ

入門〜普段飲みに最適なライン。最安値は約1,936円と、ココ・ファームの中でも手に取りやすい価格帯。「今、ここにある喜び」というネーミングも印象的だ。

味わい:軽めでフレッシュ、デイリーワインとして毎日開けても飽きない親しみやすさ

⑤ NOVO(ノーボ)スパークリング

サミット採用で世界に名を轟かせたスパークリングワイン。国内外の公式行事に選ばれ続ける格式と、ココ・ファームならではのクリーンな味わいが特徴。特別な席にふさわしい一本。

味わい:きめ細かい泡、フレッシュな果実感、品のある酸と爽快な飲み口

おすすめシーン:乾杯、記念日、贈り物、特別な食事の席

ココ・ファームを訪れる:ワイナリー見学ガイド

ココ・ファーム・ワイナリーには、直営ショップとカフェが併設されている。ワイナリー見学や試飲も可能で、週末には多くのワイン好きが足利を訪れる。

  • 住所:栃木県足利市田島町611
  • アクセス:東武伊勢崎線「足利市駅」よりタクシー約10分
  • 直営ショップ:ここでしか買えないヴィンテージや限定品も
  • カフェ:ワインと地元食材を組み合わせた食事が楽しめる
  • 収穫祭:毎年秋に開催。全国から数千人が訪れる人気イベント

実際に急斜面の畑を目の前にすると、「この傾斜を手で耕したのか」という感動が込み上げる。ワインを買うだけでなく、その背景を体感しに行くことをおすすめしたい。

【シェフミチのペアリング提案】ココ・ファームのワインと和食

フレンチシェフとして10年以上のキャリアを持つシェフミチが、ココ・ファームのワインに合わせる料理をご提案する。

農民ロッソ × すき焼き

醤油・砂糖・みりんで甘辛く仕上げたすき焼きの牛肉は、農民ロッソのミディアムボディと見事にマッチする。タンニンが肉の脂を引き締め、甘辛いタレがワインの果実感を引き出す。鍋料理とワインの組み合わせは意外に思えるかもしれないが、これが本当によく合う。

農民ドライ × 真鯛の昆布締め

昆布の旨味を吸った真鯛の繊細な甘みは、農民ドライのフレッシュな酸と完璧なバランスを取る。日本料理の精緻な技と、ブルース・ガットラヴが追求した「料理を引き立てるワイン」の哲学が、この組み合わせで見事に交差する。

NOVOスパークリング × 黒毛和牛のカルパッチョ

サミットで首脳たちを魅了したNOVOは、特別な席での一杯にこそ輝く。薄くスライスした黒毛和牛にオリーブオイルと塩で仕上げたカルパッチョと合わせれば、和牛の甘みとNOVOの繊細な泡が織りなす贅沢な体験が生まれる。

こころみ学園が伝えること——ワインと福祉の交差点

ココ・ファームのワインを語るとき、どうしても外せない問いがある。

「このワインは、障害者支援の文脈で飲むべきなのか?」

答えは「そうではない」と思う。

ココ・ファームのワインは、G8首脳のグラスに選ばれた。JALのファーストクラスで提供された。それは「福祉のワインだから応援しよう」という判断ではなく、純粋に「このワインが一番美味い」という評価だ。

川田昇が1958年に目指したのは、まさにそういう場所だったはずだ。障害者だから「頑張っているね」と褒められるのではなく、障害者だろうと何だろうと「この仕事は本物だ」と認められる場所。

そしてそれは、66年の時を経て、確かに実現した。

現在、こころみ学園には128名の利用者が暮らし、95名のスタッフが働いている。彼らが毎日上る急斜面の畑は、今日もブドウを育てている。

よくある質問(FAQ)

Q. ネットで購入できますか?

はい。楽天市場を中心に、農民ロッソ・農民ドライ・こころぜ・いまここなど主要ラインナップがオンラインで購入できます。公式オンラインショップ(cocowineshop.com)でも購入可能です。

Q. ギフトに向いていますか?

非常に向いています。「サミット採用の日本ワイン」「こころみ学園のストーリー」という背景があるため、贈った相手に話のネタになる。父の日・誕生日・記念日のプレゼントとして、ただ美味しいだけではない「意味のある一本」を贈れます。

Q. ワイン初心者でも飲みやすいですか?

はい。特に「いまここ」「農民ロッソ」はワイン初心者にも親しみやすい価格と味わいです。いきなり高価なワインを試すより、まずはこのあたりから始めるのがおすすめです。

Q. 見学はできますか?

はい。直営ショップとカフェが営業しており、週末は多くの来訪者が訪れます。毎年秋の収穫祭(こころみ学園祭)は特に人気が高く、全国から数千人が集まります。訪問前に公式サイト(cocowine.com)でスケジュールを確認することをおすすめします。

今すぐココ・ファームのワインを手に入れる

父の日・記念日・誕生日のプレゼントに、あるいは今夜の一本に。ココ・ファームのワインは、どのシーンでも「このワインには話がある」という特別感を添えてくれる。

まとめ——68年間、変わらなかったもの

1958年に川田昇と生徒たちが切り拓いたあの急斜面は、今もなお現役のブドウ畑だ。

機械が入れないから、人が耕す。障害があるから、慎重に、丁寧に。それが結果として、他のどこにもない品質のブドウを生む。

サミットの晩餐会で乾杯されたワインが、今日もスーパーやネットで3,000円以下で買えるという事実に、なんだか胸が熱くなる。

ココ・ファームのワインを一本開けるとき、あの急斜面で丁寧に積み重ねられてきた時間のことを、少しだけ思い出してほしい。

父の日ギフトに「ストーリーのあるワイン」を贈るなら

父の日のプレゼントに何を選ぶか悩んでいる人に、こう提案したい。

「値段ではなく、物語を贈ろう」と。

ここ・ファームのワインには、長い物語がある。中学の先生と障害を持つ生徒たちが、誰も信じなかった急斜面を2年かけて開墾した話。前例がないからと醸造免許を断られながらも、保護者が出資してワイナリーを作った話。そして、その畑のワインが世界の首脳たちのグラスに選ばれた話。

お父さんがワイン好きなら、ボトルと一緒にこのストーリーを添えてほしい。きっと一口飲んだあと、「このワインは面白い」と言うはずだ。

ここ・ファームと同時に知りたい:日本ワインの今

ここ・ファームが切り拓いた道を歩むように、いま日本のワイン産業は急速に成長している。

国税庁のデータによれば、国産ブドウを100%使用した「日本ワイン」の生産量はこの10年で大幅に増加している。山梨・長野・北海道余市・岩手など、各地でテロワールを活かしたワインが生まれ、国際的な評価も高まっている。

ここ・ファームはその先駆者として、二重の意味で日本ワインの扉を開いた。ひとつは「国産ブドウ100%で世界品質のワインを造れる」という証明。もうひとつは「ワイン造りは社会と地域に根ざせる」という可能性だ。

ここ・ファームの一本を手に取るとき、あなたはその66年の歴史をグラスに注いでいる。

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